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KAYANOのイタリア気分 No.28

2004年4月号

パネ料理とパン職人のおじいさん

パネとの新たな出会い

イタリアでは残ったパンを料理に利用することも多い。固くなったパンはパン粉にして衣にしたり、水で戻して挽肉料理のつなぎにしたりと脇役的にも頻繁に使われる。そんな中でパンが主役になる料理のひとつに「パンツァネッラ」というトスカーナ料理がある。カチカチのパンを水で戻しハーブやトマト等の野菜と合わせたサラダだ。

イタリアのパンツァネッラ

ラ・フォンテのパンツァネッラ

今も忘れない「パンツァネッラ」を初めて食べたのは真夏のシェナ カンポ広場でだった。イタリア人の友人マウリッツオに連れられて、日本人の博美さんと3人でフィレンツェからドライブに繰り出した時の事。マウリッツオがこんな熱い日には「ミントやバジルの効いたパンツァネッラが美味しいから食べよう!」と提案した。博美さんも私も初めて聞いた料理名だった。デリカの店先で彼が指差した「パンツァネッラ」。

まずは見た目に驚いた。トマトやハーブが入っているが、全体は茶色くてかなり地味。食べて見るとパサパサして、茹でた肉を細かくした様にも、オリーブオイルをたっぷりかけたクスクスの様にも思える。「え~!パンなんだ~」と驚く二人をマウリッツオは楽しそうに眺めていた。食べながら博美さんが私に呟いた言葉は「食べても食べても減らない!鳥の餌みたい!」だった。私はというと、あまりにトスカーナ育ちの彼が勧めてくれるので「それなりの意味を見つけなくては!」と思い、始めは義務感の様に食べ続けた。そのうちだんだん病み付きになってきた。ミントとトマトとバージンオイルの味をパンがたっぷり吸った素朴な味だ。

「この素朴さが郷土料理の醍醐味?ここに来たら、きっとまた食べたくなるんだろうな!」しかしマウリッツオが空腹の私達の為に山程買った「パンツァネッラ」のみの昼食は正直言ってちょっとつらかった。あの美しいカンポ広場に立つと、今でもあの時のことを思い出す。その後、日本で工夫を重ねたラフォンテの「パンツァネッラ」のレシピは生徒達に評判が良いので念のため。。。

リボリータ

パッパ・アル・ポモドーロ

冬のトスカーナ料理にはリボリータとパッパ アル ポモドーロがある。前者は大きめな野菜で仕上げた野菜スープに堅くなったパンを入れたスープ、後者はトマトソースで煮込んだパン粥だ。

パンツァネッラもリボリータもパッパ アル ポモドーロも野菜をたっぷり使ってとてもバランスが取れている。残った物を無駄にせずに、そのひと皿で効率的にお腹が膨らむピアットポーベロ(貧乏なお皿)から生まれた物だ。

他にも乾燥しかけのパネを焼いてトッピングをしたブルスケッタは各地で食べられるし、プーリアのレストランではパネのポルペッティーを習った。パネを水に浸けて絞り、卵とチーズでつないでフリットにした物、茶色く焦げた香ばしさがパネとは思えない。シチリアでは固いパネを揚げてたっぷりとオレガノをかけた前菜に出会った。

パネッテリアのおじいさんとおばあさん

昨年シチリアのタオルミーナに滞在した時の事だった。友人の家で私がランチを作ることになった。シチリアの素材で作るのだから、是非以前来た時に食べたヨーグルトの様に心地良い酸味のあるシチリアのパネを添えたいと思った。表面が真っ黒で中身がぎっしり詰まり噛む程美味しさが増してくる。その味が懐かしかった。友人に聞くと、山の上の店なら手に入るという。彼もお気に入りのパネらしく喜んで連れて行ってくれた。車はどんどん街から離れて行く。「ここからは歩くしかないよ!」山の中,急な坂道,とてもパネッテリア(パン屋)があるとは思えない。

30cmのドーム型パン

パン焼き釜

店に続く細い小道に薪が積み上げられている。構わず進んで行くとパネの焼ける芳ばしい香が漂って来た。80才はとうに超えた老夫婦が私を見て「何か用事?」と警戒するような表情で訝しげに聞く。東洋人がこんな山奥にパネを買いに来たなんて思いもよらなかったに違いない。この店は街に車で売りに行くのが中心で店も構えていなし、種類は直径30cm位のドーム型のパン1種のみ。近所の人以外めったにパンを買いに来る人はいないらしい。「以前食べたパンが美味しかったので買いに来ました。」っと言うと、とてもとても喜んでくれた。

車を停めて後から来た友人を見て安心したのか、奧に通してくれてパン焼きの釜を見せてくれ撮影まで許してくれた。 御夫婦は結婚して60年になる。今は息子たちに主権は譲ったもののおじいさんは未だにパンを焼き続けている。パン職人になって70年以上になるそうだ。パネは経済的なこと意外にも彼の人生を支えて来たものに違いない。そんな事を考えながら、おじいさんの人生が詰まったような味わい深いパネを添えたランチは最高だった。

各地で食べたパン、そしてパンを利用した料理、また人生の大半をパン焼いて過ごして来たおじいさん、様々な出会いを通してイタリア人のパネに込められた思いを大切にしなくてはと改めて思った。 そして「パネは生き物なのだから優しくしてあげて!」とマルゲリータの声が聞こえてくるようだ。

3ヵ月に渡って、パネのお話におつき合い頂きありがとうございました。

次回、イタリアにいらしたら、皆さんも脇役のパネにも少し注目してみてくださいね。きっと様々な出会いがあるはずです。

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