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KAYANOのイタリア気分 No.41

2005年5月号

シチリアのお父さんパパチコ

2005年4月9日。満開になった東京の桜が散り始めたこの日、私にとって一生忘れることの出来ない日となった。世界の平和を願い続けたヨハネパウロ?世と時をほぼ同じくして、私の大切な人も神に召されて行った。

チコ=シモーネさん享年94歳。

Cico・Simone氏

彼はたくさんの夢と希望と喜びを周りの人々に残していった。彼の人生に少しでも触れた人は皆そう感じているはず...。ほんの1ヶ月前の3月5日。彼は私からの電話をとても喜んでくれて「Kayano!元気??タオルミーナにはいつ戻ってくるの?いつでも待ってる!Un・Baccione!」といつもと変わらずに電話を切ったのに...。その声がまだ聞こえるようで、悲しい知らせをとても信じることが出来なかった。それから数日間、悲しくて何も手につかなかった。そう、彼が私に残してくれた物があまりに大きすぎて彼の死をすぐには受け入れる事が出来なかったのだ。私は彼のことを「パパチコ」呼んでいて、心からシチリアのお父さんだと思っていた。

青い扉の前のローラ

パパチコと初めて会ったのは98年の秋、タオルミーナの彼の自宅だった。ブドウ畑に囲まれた白いかわいい家。そのブルーの扉の前でタクシーで着いた私を笑顔で出迎えてくれた。彼は親友ジャンフランコのお父さん。そのご縁で彼の家にしばらくホームステイして仕事を手伝いながら、夜はレストランで研修することになっていた。彼はその頃10月5日に行われるベンデーミア(ワインの収穫祭)の準備をしていて、私は午前中その作業を手伝うことになっていた。朝6時に起きて仕事を始める。ぶどうの剪定や草取りをした後は8時に朝食が始る。その頃ローラという大きな犬が居て、パスタを茹でて彼女の食事の支度をするのも私の仕事だった。

パパチコのお庭で昼食中

家の掃除をしたりご飯を作ったり、私に出来ることもあったが、農作業に関しては足手まといな私を「良く働いてくれる」と褒めてくれていた。手始めにワインを詰めるビンを何本も何本も洗った。「水はbianco?(白い)」と聞かれ「ううんtrasuparente!(透明よ!)」と答えると「イタリア語が上手いね」と大きな声で笑っていた。その豪快な笑いが大好きになった。12時までたっぷり労働した後は昼食。彼の昼食は庭の野草とパスタを茹で、ニンニクとオイルで絡めたシンプルなもの。それに自家製のワインとパン。それが済むとシェスタ。3~4時間ぐっすり眠る。農作業が「元気の源その1」ならこの食事とシェスタが彼の「元気の源その2」のようだった。

Cafe・Mocamboにて

その間私は雑用とお勉強!時にはシェスタ。そして連れ立って5時頃街へと出かけて行く。彼が出かける場所は、毎日決まっている。コルソウンベルトの真ん中のエトナが見える広場”カフェ モカンボ”。そこで約2時間、気の合う友達とおしゃべりしながら、リラックスタイムを楽しむのだった。これが「元気の源その3」。

それから私は毎年タオルミーナを訪ねたが、私が居ても居なくても生活のペースを崩さない彼。再会の場所はいつも”夕方のカフェ モカンボ!”。私はタオルミーナに着くと恋人に会うようにその時刻、日が傾くのを心待ちにした。 そしてこのカフェで過ごす「時間に追われないイタリアらしい贅沢な時」が大好きだった。仕事のオフに東京でも青山や広尾のカフェに行ってみるが、あのゆったりとした時間が過ごせないのはなぜなのだろう!

おしゃべりを楽しんだ後、彼はサンドメニコにご出勤。実は彼、ピアニストとして、サンドメニコホテルのラウンジでピアノを弾いているのだった。若い時にアメリカへ渡り、ミュージシャンとして活躍し、1952年に生まれ故郷のタオルミーナに戻った後、何十年もこの有名な5ツ星ホテルでピアノを奏でてきたのだ。ホテルとの関りはアメリカに渡る前からだから、70年以上になると語ってくれた。ピアノを弾くことが「元気の源その4」。 その後、彼の「元気の源」は数限りなくあることを知る。そしてその全てが彼の人生の輝きになっていることに私は気がついたのでした。

サンドメニコのラウンジにて

さて、その時の私はというと、彼より一足先に6時頃レストランにご出勤!研修生とは言え、レストランの忙しい時間には汗だくで働いた。 終わると11時頃パパと家へ帰るためにサンドメニコのラウンジへ向かう。ラウンジに近づくと彼のピアノが重厚な空間に響いている。さっきまで戦争のような厨房に居たのが嘘の様...。 ピアノの前のチコも、午前中泥まみれに農作業をしていたのが嘘のようにシック....。同じ日にこんなに色々な体験が出来るのが楽しくて、人生って色々な場面があるのだと身をもって感じたそんな日だった。あの重厚な家具やシャンデリアに囲まれて、世界中のVIPが集まるラウンジに今も彼のピアノが響き渡るのが聞こえるようだ...。

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