KAYANOのイタリア気分 No.9
2002年9月号
南イタリアで出会った、情熱の果実トマト
アドリア海を海岸線沿いに電車に乗って、ペスカーラを過ぎてプーリア州に入った頃だったと思う。赤土と交互に広がる真っ赤なじゅうたん、切れ間の大地には所々に赤い塊が積み上げられている。「何これ?えっ、トマト??こんなにたくさん?見渡す限り!ウソ!」一人旅の私は自問自答、たぶん初めての南イタリア旅行の時の事だったと思う。それまで北イタリアで生活していた私は、メルカートに並ぶ何種類もの真っ赤なトマトを眺めながら「これぞイタリアのトマト」と満足していたのです。それが、その時、遠巻きながら本物に出会ってしまったのでした。
イタリア料理で欠かす事の出来ないトマトは、イタリアでは「情熱の果実」と呼ばれて親しまれています。収穫は6月始まって9月で終わります。トマト工場の稼動もその4ヶ月だけです。 イタリアのトマトは世界中で良質とされているので、イタリア国内のみならず、1年分の世界中の消費量を4ヶ月で加工するのですから、この時期は大忙しです。 2年前トマトの品種でもその名を知られた、ナポリ近郊サンマルツァーノ村のトマト工場に見学に行きました。(その様子はイベントのページにもありますよ!)9月とあって工場の仕事は終盤。周りの村々はトマトは収穫を終え、更に南のプーリアやカラブリアから届いたトマトの加工に追われていました。そう言えばプーリアから旅をして来た私達は、この街に着くまで、何台、トマトを載せたトラックを見かけた事か....。
トマトの収穫期に忙しいのは工場ばかりではありません。南イタリアの家庭では、家族総出でこの時期、トマトソースやピューレを作り瓶詰めにします。6年前の夏、ナポリの近くの街にホームスティした折、ちょうどその光景に出くわせました。大人から子供迄、体中を真っ赤にしながら、大きな鍋で火を入れ、漉して、瓶に詰めていました。頼み込んで、そのお宅の地下倉庫を見せて頂きましたが、3段ある棚の2段はトマトの加工品がびっしりと並んでいました。これから1年間家族で大切に食べられていくのです。
プーリア地方のアルベッロベッロを訪れた時、石の家の天井からぶら下がった紐でまとめたチェリートマトを見ました。
白い石に赤が映えて、トマトのリースも可愛いなっと思ったら、こうしてつるしておくと乾燥して、甘みが増すそうです。これも、1年間かけて食べるそうです。こんなふうに、目で見る食の楽しみもあるのだとやけに感心しました。
「ポモドーリセッキ」(乾燥トマト)はイタリアに行くと忘れずに持ち帰る食材の一つです。これは、トマトを割って種を出し、塩をまぶして天日に干したものです。簡単に出来て日持ちするトマトの加工品として昔から作られてきました。私はいつも市場か農家でダイレクトにちょっとウエットが残る「ポモドーリセッキ」を買って来ます。日本に帰ってから、オイル漬けにして、そのまま食べたり、煮込みやパスタ料理に大活躍です。日向臭さが残る甘みと風味は南イタリアを思い出させてくれます。ラフォンテの生徒さんは私の漬けた「ポモドーリセッキ」の味、知ってますよね。最近は日本にも輸入されてはいるけれど、工場で量産された物のようで、味が全く違います。
イタリア人の性格を良く情熱的っと表現しますよね。確かに、彼等は、遊びにも仕事にも、すぐに熱くなる人種です。それは、太陽と大地の恵み、情熱の果実をたくさん食べているせいかもしれませんね。なんと、一人当り、年間60kgのトマトを消費していると言うのですから、驚きです!