KAYANOのイタリア気分 No.16
2003年4月号
子羊 受難の季節
今年の冬は寒く、春の訪れが待ちどうしかったですね。3月末頃からやっと春めい
てきたという感じです。イタリアの春と言えば復活祭(パスクワ)。今年は4月20日(日)だそうです。この日は十字架に張り付けになって亡くなったキリストが生前の予言通りに蘇ったことに起源する宗教行事ですが、パスクアには離れて暮している家族が帰ってきたり、子供達には「生まれる」にあやかったチョコレートで作られた卵が贈られます。これは中が空洞になっていて人形やおもちゃ等のプレゼント入りです。クリスマスに継ぐキリスト教のイベントを大人も子供も楽しくお祝します。
ただこの季節を歓迎していないのが羊達です。
復活祭のセコンドピアット(メイン料理)は羊料理が定番で、特に生まれて間もない小羊を食べる習慣があるからです。羊は2月~4月にかけて出産ラッシュを迎えます。メスは将来子供を生ませたり、ミルクを取ったりするために大切に育てられます。大方オスがミルクだけである程育て、肉質が硬くならないように、草を食べさせる前にパスクワの食卓に昇るのです。
オーブン焼きにしたり、煮込みにしたり、料理方法は様々ですが、定番はカッチャトーラと呼ばれるハーブミックス(ローズマリー・セージ・ニンニク)で風味を付けたオーブン焼きです。 「アル サングエ」と言って、火を入れすぎないレア状態、噛んだ時に肉汁がジューシーに感じられるのが美味しい焼き方です。サンジョベーゼやモンテプルチアーノ種で作ったミディアムボディの赤ワインと合わせると最高です。
羊と人間との関係は紀元前に遡ります。その昔は羊を飼育している数で富の指標だったそうです。
羊はイタリア語で"ペーコラ"、そのミルクで作ったチーズは"ペコリーノ"です。イタリアチーズの最古と言われるローマ地方の"ペコリーノロマーノ"はローマ時代にはもう作られていたそうです。良質のペコリーノは地中海に浮かぶサルデニア島のもので"フィオーレ ディ サルド"(サルデニアの花)と優雅な名前がついています。
チーズの産地からもわかるように、羊料理を良く食べるのはローマを中心にしたラッツィオやアブルッツオ地方等の中部イタリア、そして羊が人口の5倍いるというサルデニア島です。ちなみに、ペコリーノは羊の出産が多い2月~4月の濃厚なミルクで仕込まれたのが一番美味しいそうです。
ローマ郊外では、羊の群れに良く出逢います。
アッピア街道からローマ時代の水道橋と羊の群れを眺めると、ローマ時代にタイムスリップした気持ちになります。
サルデニアで見たのは、見渡す限りの草原の羊の群れにたった一人の羊飼い「パードレ パドローネ」という小説は、サルデニア島の文盲羊飼い青年のお話でした。彼は最後には言語学者として大成するのですが、生活を羊に頼るサルデニア島のちょっと悲しいお話でした。
子羊肉のことをローマでは"アバッキオ"と呼び、他の地方では"アニェッロ"と呼びます。ローマの庶民はいつもは安価な牛の内臓料理ばかり食べているのに、春には奮発して1年間貯めたお金で"アバッキオ"を食べたというお話を聞いた事があります。
8年前に伝統的なローマ料理で知られたリストランテ"ケッキーノ"に行きました。テレビ取材の仕事も兼ねていたのですが、ビネガーとアンチョビを加えて煮こむ"アバッキオ アッラ ロマーナ"(ローマ風子羊の煮こみ)も食べました。アバッッキオや内臓を中心とした伝統的なローマ料理を楽しみたかったら、お勧めのお店です。地下のカンティーナには実に400種類のワインが眠っているそうです。
そう言えば、今年は未年(ひつじどし)ですね。寒い冬だったので、冬はウールのセーターで羊達にお世話になりましたが、パスクアには今が旬の子羊を堪能してますますお世話になりましょう。そしていつもの年より干支の羊たちへの感謝を忘れずに...。
物騒な社会情勢なのであくまでも予定ですが、私は今年のパスクアはトスカーナのフィレンツェで迎える予定です。"スペッツアティーノ ディ アニェッロ"と言うトスカーナ風の子羊の煮込みや"ペコリーノトスカーノ"も美味しいですよ!どうやら「子羊の受難の季節」に一番感謝を捧げなくてはいけないのは私自身のようですね。
それでは皆さん"BUON PASQUA!良い復活祭を!"