KAYANOのイタリア気分 No.22
2003年10月号
カラブリアの辛~いペースト
今月はカラブリアの旅の最終回「フンゴシーラ社」の工場見学の様子とそこで出会った「カラブリア とっておきの3つのペースト」を御紹介します。
「道がわからなくなってしまったんです!」どこまで行ってもカーブ続きの山道でドライバーが先方に入れた電話はこれが3度目。最初の目印の山あいの教会からもう20分は飛ばしています。「現地の人に分からないなら、私達に分かるはずなんてない!」こんな場合は静かに成りゆきを見守るしかありません。
それからしばらくして霧が立ち込める中、やっとの事で着いたのは、ビアンキ村の「フンゴシーラ社」という瓶詰め加工の工場。ビアンキは白という意味ですから、この霧に名前の由来があるのかもしれませんね。(どれだけ山深い所かわかっていただけるでしょう!)
カラブリアは隣の地方との境に険しいシーラ山脈が横たわり、3方を海で囲まれています。陸交通も海運業も栄えなかったので、山と海が情報を遮断して来ました。それと引き換えのように独自の文化が根付いてきたのです。
食に関して言えば、山と海がたくさんの恵みををもたらし、人々はこの地方ならではの食文化を築いてきました。
そんな立地のカラブリアの食を凝縮し、小さな瓶に詰め、お洒落なパッケージを付けて、イタリア全土はもちろん外国にまで提供しているのが「フンゴシーラ社」です。缶詰の保存食品、香辛料、ソース、パテなど、特製の食料品を製造しています。
日本では今年3月、幕張で開かれた食品見本市「フーデックス」に出品したものの、製品輸入までにはもう少し時間がかかるようです。
この地方では、野菜の保存方法として、家庭で野菜のオリーブオイル漬けが作られてきました。
なす、アーティチョーク、きのこ、ピーマンなど、まざまな野菜のオリーブ漬けが食卓に登場するのです。ちょうど日本の漬け物のようですね。
「フンゴシーラ社」の主力商品もカラブリアの太陽をさんさんと浴びた野菜のオイル漬けです。見学した時はちょうどナスのオイル漬けを作っていました。ソースやパテなど含めると作っている製品はなんと200以上だそうです。
フンゴシーラ社のみなさんと。
親切なスタッフの方々と共に、私達も白衣をまとい、清潔な工場と倉庫を隅々まで見せていただきました。
数多い製品の中で私の興味を引いたのは
「ボンバ(BOMBA) ・ ンドゥイヤ(N`DUJA) ・ グリゼット(GURIGETTO)」という耳慣れない名前の3つの真っ赤な唐辛子のペーストでした。
まず「 ボンバ(=爆弾)」という恐ろしい意味を持った瓶は、とうがらし、なす、アーティチョーク、にんじん、オリーブ、きのこを細かく刻んで混ぜ合わてあります。爆弾は唐辛子の辛さの表現なのでしょう。唐辛子と野菜の相性は抜群で野菜の甘味と唐辛子の辛味のコントラストが複雑な味を出しています。
「ンドゥイヤ」は唐辛子・豚の脂身や内臓・塩を漬け込んだペーストです。肉の繊維が適度に残りフェンネルの香りがポイント、癖になる辛さです。
「グリゼット」は唐辛子、イワシの稚魚、オリーブオイルを練り合わせてあります。上澄みのオイルはラー油のような色、辛くて酸味の強い塩辛のような味わいです。
この記事を書く前に、持ち帰った3つのペーストを並べ、パンに塗りながら交互に食べてみました。野菜味のボンバはキムチを食べ慣れた日本人には抵抗なく受け入れられそうです。実は一番はまったのは、ンドゥイヤです。噛み答えのある辛いパテのようで、いつの間にか?ビールが傍らにありました。グリゼットはそのまま食べるには不向きですが、調味料として料理の幅がかなり広がりそうです。3つとも防腐効果のある唐辛子をたっぷりと使った醗酵食品。唐辛子が多く採れ、気候が暑いカラブリアの生活の知恵から生まれた調味料なのでしょうね。イタリアへ行ったら皆さんも是非試してみてください。
今回私にとって2回目のカラブリアの旅でした。2回の旅を通して未開の地の扉は少し開いたような気がします。自然・歴史・食文化・人々、また様々な出来事を通して、この地方の魅力がますます奥が深いことを感じさせられました。さらに扉の奥には何が隠されているのでしょうね。今度は皆さんが見つけにいらしてはいかがでしょうか? カラブリアはきっと期待に答えてくれるはずです。