KAYANOのイタリア気分 No.54
2006年6月号
トスカーナの休日(Under the Toscana san)新しい自分との出会い!!
4月から5月にかけて2週間トスカーナに滞在した。
場所はフィレンツェから車で30分程のサンカッシャーノの郊外、キャンティ地区の丘の上に立つビッラ。
17~18世紀頃、修道院として使われていた建物をご主人が買い取り改装したそうで、改装には莫大なお金と10年という月日が必要だったのだとか..。
素敵なロケーションの上に居心地の良い家だったので、スケジュールはゆったり組み、料理レッスンを受ける他は、庭のハンモックでお昼寝したり、ビッラの近くをウォーキングしたりして過ごした。
トスカーナへはいろいろな季節に訪れているが、私のベストシーズンは春~初夏。なだらかな丘が一面、若草色に輝き、深緑の糸杉がより際立って美しく見える。赤いポピーの花が咲く丘は目にも鮮やか、キャンティのブドウ畑はまだ若葉だが、木々は規則正しく並び、中世から受け継がれた栽培方法のプライドがしのばれる。
そう今年はその大好きな季節に、トスカーナで2週間過ごせたのだった。緑の風を胸いっぱいに吸い込みながらのドライブは最高!
「ここで暮したらどんなに素敵かしら!」とぼんやり考えていたら、4年前に見た映画「トスカーナの休日」(Under the Toscana san)を思い出した。
夫の裏切りの末離婚したアメリカの女性「フランシス」をダイアンレインが演じていた。傷心を癒すため訪れたイタリア。10日間のツアーバス。
トスカーナを回るうち、コルトーナという町で "ブラマソーレ(太陽に焦がれる)"の名を持つ、築300年の家を全財産はたいて衝動買いしてしまう…。
それからフランシスの奮闘の日々が始まる。異国で一人の生活をしながらボロボロの家を修繕してゆく。まさに悪戦苦闘という感じ….。
戻るところはどこにもない。 スクリーンからは一人になってしまった女性の孤独感や挫折感が伝わってくる。恋もするが成就しない。そんな時「もう若くはない!」と焦燥感に駆られながらも、人生を仕切り直そうと、懸命に生き抜くその必死さが同じ女性として身につまされるように、ひしひしと感じられたのだった。
けれど、話が進むにつれて何一つ他人の助け無しには成し得ないことを痛感する。友情や家族の意味についても考えを新たにするのだった。
彼女は物(家)と人との出会いを大切にして愛をかけて、それ以上の愛を周りからかけられて新しい人生のスタートを切ることが出来た。そう、それは新しい自分と出会いでもあった。
フランシスの知的かつコミカルな行動に涙しながらも笑い、トスカーナの自然に心癒される映画だった。
以前は綺麗所ばかりの役柄が多かったダイアンレインが「深みのある素敵な女優」になったと感激した映画でもあった。
なんて昔の映画を思い出しつつ、「そう新しい自分と出会うなら、私もトスカーナを選ぶ…」と思ったりもした。 まあ、家を購入できるお金があればですが….。
でも、何もトスカーナに家を買わなくたって、フランシスが気づいたように自分の身近に愛をかけて幸せを感じる対象はたくさんあるはず。それに気が付いたときが新しい自分との出会いではないかしら?
帰国の前日、イタリア人に「まだトスカーナに居たいでしょう?」と尋ねられた。
でも私は迷わず「帰らないとまた来れないから!」と、私を待っていてくれる人々の顔を思い出しながら答え、「2006年春のトスカーナの休日」を終えたのでした。