KAYANOのイタリア気分 No.77
2008年5月号
ポルトフィーノに魅せられて リグーリアの旅
私がポルトフィーノを初めて訪ねたのは、90年の事。
イタリア人の友達に「素敵な街に連れて行ってあげるよ!」と告げられただけでフィレンツェから車を飛ばし、着いたのがこの街。 イタリアの生活が始まったばかりの、よく晴れた5月の日曜日の事だった。海に面したその町は、緑に覆われた岬の先が入り江になっていた。海沿いに色とりどりの小さな家が並び、その前はヨットハーバーになっている。
まるでおとぎの国にでも迷い込んだような衝撃を受けたのを覚えている。時間がゆっくり流れ、地中海を眺めながら魚介料理とドライな白ワインを堪能した。ポルトフィーノのとの出会いのお陰で、その後私は大のリグーリア好きになったのでした。
ポルトフィーノはリビエラでも最も魅力的で美しい風景の一つに数えられる。
元々は東リビエラの入り江にある古い漁村だった。温暖な気候と風光明媚な港に惹かれて富豪や世界的なスター達に脚光を浴びるようになったのは戦後のこと。セレブたちは決まって、ヨットで乗りつけるそうだ。オリーブと松林の入り江に向かって青い地中海を白いヨットで進み、この素敵な入り江が見えてきたらどんなに素敵でしょうね。それにしても10分も歩けば、端から端まで歩けてしまう街。人口は500人あまり、とても小さな村だけれど、バカンスに訪れる人々のお陰でイタリアの中で一番お金持ちの岬と呼ばれているのだそうです。
なるほど、海を見下ろす丘の上には豪華なビッラや高級ホテルが並んでいて、高級品を扱うブティックも軒を連ねている。もし時間があったら、入り江の対岸にあるサンジョルジョ城に登ってみると良い、上り坂は少し辛いけれど、決して裏切ることのない素晴らしい風景が眼下に広がります。
もしポルトフィーノを訪れるなら、宿泊は近くのサンタマルゲリータ リグレをお勧めします。私も一度宿泊しましたが、ここも海沿いにパームツリーが揺れる、リビエラらいしい素敵な街です。ホテルもリーズナブルだし、鉄道の駅もある。
ポルトフィーノまでは車で30分ぐらい、街につづく車がやっとすれ違える海岸線の道は陸側に崖が迫っていて、リグーリアの独特な地形がしのばれる。
リビエラの海岸沿いには、こんな地形の厳しさから、陸路より船での移動の方が便利な村がいくつも点在している。
そう言えば一度、ポルトフィーノからフェリーで30分の「サンフルットーゾ」という街に行ったことがあった。人口なんと16人、陸路だとポルトフィーノから峠越えを入れて3時間かかるのだそうだ。海に沈んだマドンナが守護神で漁業と手工芸品で生計を立てているらしい。
海辺で刺繍をしていたシニョーラに「不便で寂しくはないですか?」と質問したのを覚えている。彼女は静かに笑って「少しね!」と答えてくれたが、今思えば愛する自分の街に対して、なんて失礼な事を聞いてしまったのだろうと反省している。
心の中では「こんなに良い街は他にはないわ!」と思っていたに違いないのに。
5月の爽やかな風を感じ始めると、小さな街や素敵な風景に出会うためリグーリアを旅したくなってきた。あの海を眺めながらゆっくりと時間が流れる人生の贅沢を味わいに。
次回は、徒歩で回ったチンクエテッレのお話をしたいと思います。