ミラノ便り No.12
パンを捨てずに
アオスタ州
Zuppa di Valpelline
アルト・アーディジェ州
パンのニョッキ
昭和一桁生まれの母に育てられた私は、いつもお米を粗末にしてはいけないと言われ続けてきた。
私のイタリアの連れは、お米ではなく、パンを粗末にすることはない・・・。
食器棚でどんなに硬くなろうが、そのパンがゴミ箱に捨てられることはない。
朝、温めたミルクにそのパンを浸して柔らかくして食べる。
毎日できたてのフカフカのパンを誰もが手にすることができるようになったのは、最近のこと。
それまでは、それぞれの村に共同の薪の釜戸があり、各家庭でパン種を持ち寄ってパンを焼いていた。
薪は食事を用意するのにも、冬の暖を取るのにも重要だったから、パンを焼くための共同の釜戸はひと月に一度。
高地になれば半年に一度しか使えなかった。
だから、パンは古くなり硬くなってしまう。
ピエモンテ州 ドルチェ
Torta di pane
イタリア各地に硬くなったパンを利用したレシピがあふれているのはこのせいなのである。
アオスタ州のフォンティーナチーズをふんだんに使った Zuppa di Valpelline、ピエモンテ州の古くなったパンをミルクに浸して作るドルチェ Torta di pane、リグーリア州のシーフードのズッパ Ciuppin、アルト・アーディジェ州のパンのニョッキ Canederli、トスカーナ州の硬くなったパンを水に戻してから作るおからのような食感の Panzanella、ウンブリア州の Acqua cottaにも硬くなったパンをトーストして使う。
トスカーナ州のPanzanella
古くなったパンを再利用した料理に慣れているはずの私でも、びっくりした一品があった。
それは、トスカーナのワインで有名なモンタルチーノのトラットリアで、私の好物のうどんのようなパスタ、ピーチ(地元では、ピンチと呼ぶ)を注文し、一番伝統的なソースで食べたいと注文した時である。
出てきたのは、ピーチの上に、エキストラバージンオイルで香ばしく炒めた古くなったパンの屑(要は自家製パン粉)とニンニクがかかっている・・・ただそれだけ。
それまでは、ニンニクをふんだんに使った、トマトソース、アリオーネがこのパスタに合う伝統的なソースだと思い込んでいたのに・・・
もっともっと質素なソース(?)が本来の姿であったのだ。
私はこのような料理を作るときは、わざわざ早めにパンを買っておいて作ることもあるのだけど(売れ残りの前日にパンを安く売ってくれたらいいのに・・・なんて思いながら)。
イタリア料理・イコール・おしゃれな料理みたいなイメージが出来上がってしまった今日この頃、本来のイタリア料理は家庭料理、要はおふくろの味、粗末な材料を、あるいは残り物を上手にアレンジして作り上げた料理だってことを、もっと多くの人に知ってほしいと思うのです。